公的支援とは
東日本大震災のような大規模災害が襲ってきた場合、人命救助の限界は72時間(3日間)とされています。消防・警察・自衛隊などの公的機関は、被災地の人命を第一優先に救出するための救助活動に注力します。また道路の寸断や緊急車両以外の通行制限を想定すると、避難所などの被災者に公的支援が開始されるのは、3日後になってしまうのです。
自主防災(家庭や地域)の必要性
公的支援が来るのに3日間かかるとすると、ご家庭の安全を守るためには自主防災をするしかないのです。しかし、防災のイメージはできても家族構成やライフスタイルなどが異なるため、実際には何からすれば良いのか、アイテムの優先順位やイザという時に困るものは何なのかなど、わかりづらいのが実情です。
このマニュアルでは、ある家族が普段の備えや地震が発生した時に実際に困ったことなどを参考にしながら、防災対策を始めていく方法をご説明いたします。
災害はいつ、どこで遭遇してしまうかわかりません。発生時間によって状況も変化します。ご家族一緒の時か、ばらばらに活動されている時かによっても対応は変わってきます。
様々なケースを当てはめ、ご自分の家族や暮らしにあった防災対策の参考にしてください。
わが家の防災(生命・財産をまもる)
自分の住んでいる場所を知ろう
地震の多くは地球の表面を覆っているプレートに蓄積されたひずみが跳ね上がる「プレート境界型地震」と、内陸部地下の岩盤に蓄積されたひずみが破壊され、発生する「内陸型地震」です。
東日本大震災でも、津波にあっという間に呑み込まれてしまうような進度の速い被害に見舞われた地域と、同じ沿岸部でも関東では液状化により進度の遅い被害に見舞われたりと、異質の被害が広範囲で起こることを経験しました。
お住まいの地域は海に近いですか?大きな川の流域や山を切り開いて開発されたニュータウンでしょうか?地震が発生した場合は、住んでいる地域の地形や自然環境に影響されることが多いです。ご自宅が何から影響を受けやすいのか、把握しておくことが必要です。
○津波
津波は、その多くが地震で起こります。地震が海底下の比較的浅い部分で発生すると、広範囲にわたって海底の急激な隆起や沈降が起こり、津波となって海岸沿いに多大な被害をもたらします。
○家屋倒壊・延焼
大きな地震がくると地震に耐えられない建物は倒れたり、層破壊といって1階がつぶれたりします。そうすると火災が発生する危険性も高く、被害が集中する可能性があります。
○地盤の液状化
地下水を含んだ砂質の地盤が、地震動によって液体のように流動化してしまうことを「液状化」といいます。液状化がおこると部分的な地盤沈下によって地下の埋設物が損壊したり、建物が傾斜したりします。
○がけ崩れ
地震により、地面に水がしみこんで、ゆるんだ斜面が突然崩れ落ちる現象を「がけ崩れ(急斜地崩壊)」といいます。逃げ遅れたり家屋が壊れるなど、大きな被害が生じることがあります。
このような恐れのある30度以上の傾斜、高さ5メートル以上の崖は「急傾斜地崩壊危険箇所」といいます。
○地すべり
地面は固さや性質の違う土がいくつも層になって積み重なっています。水の透しにくい粘土層などに雨や地下水がしみこむと粘土層の上にたまります。すると粘土層を境に上の層が固まりのまま、すべり落ちます。
防災・減災のための工夫(家具の固定や配置)
阪神淡路大震災においては家屋の倒壊による圧死が多かったのですが、実際の調査では家が倒壊する前に、家具や電化製品が暴れだし逃げ道を失って倒壊事故に巻き込まれたケースが多かったようです。
これ以降、家具転倒防止用の防災グッズは数多く開発されて、販売されるようになってきました。
まずは転倒のメカニズムを知って、正しい知識で転倒防止を検討しましょう。
右の図は総務省消防庁が公開している地震の際に家具が転倒するメカニズムです。横揺れは必ず一方向だけに揺れるのではなく、フラフープを回すような感じで揺れることもあります。家具の重量と同じ力が重心に加わるとすれば家具の頭頂部で壁面に対して重量の半分の力が必要になります。また、固定する場合には壁面のどこでも良いわけではありません。壁の中にある桟(サン)と家具を固定しないと意味がありません。
桟はドライバーの柄などで、壁を水平にコツコツと叩いていくと、音が高くなる箇所が通常等間隔であります。 桟以外の部分は壁の中が空洞になっているために、家具を固定していても意味がありません。地震の振動で壁板ごと倒れてきてしまうこともあります。(総務省消防庁「地震により家具の転倒を防ぐには」から参照)
一体的な家具などの場合
積み重ねた家具などの場合
関西設計者会議緊急公開シンポジウム「インテリアの耐震安全性」より作成
わが家のハザードマップ(避難経路の確認)
各自治体では、地震や災害を想定して「地域危険度マップ」や「水害ハザードマップ」などを作成しています。お住まいの県・市・区などのホームページでも公開しています。印刷やダウンロードができる形式になっていますので、是非わが家の防災マップを作成してみましょう。
国土交通省のハザードマップポータルサイトは、地域の様々な条件設定で検索、内容を見ることができます。例えば「土地条件図」は地形・地盤・防災関係機関などが重ねられて表示されるので、地域の性質や特性を知ることができます。自治体の防災マップと併用して確認してみてはいかがでしょうか。
また、医師・看護師が速やかに待機される医療救護の設置を備えた避難所も地域によっては設けられます。要介護者や高齢者・子供などがいらっしゃるご家庭では、地域の独自情報などを、防災マップに書き込んでおくと、イザというときに安心です。
わが家の約束
風水害のように、予報などで比較的早い段階から準備することができる災害は、家族の行動を確認したり、一緒に行動することも可能ですが、地震は何時起こるかわかりません。家族がバラバラの状況で被災することが想定されます。防災用品の備えも重要ですが、集合場所や連絡方法を家族全員で取り決め、同じ認識を持つことで、イザという時にも安心して行動することができます。集合場所も指定避難所に移動する前に、自宅近くの公民館やスーパーの広い駐車場など、家族だけの一次集合場所を取り決める方法もあります。ただし、決めた時間内に家族が来ないとき、避難できる状況でないときには指定避難場所に移動しましょう。
集合場所や避難場所は、ひとつに固定せずに、第2候補くらいまで決めておくことも大切です。
自宅で地震にあったら
- まず自分の身を守る体勢になること。座布団やクッションで頭を守って机の下にもぐりこむ。
- 揺れが収まったら、慌てずにガラスなどに注意して火の元を確認する。
- ドアを開けて、ヤカンや鍋に水を確保する。余裕があれば風呂場の水も貯める。
- テレビかラジオで状況を確認する。
- 慌てずに外の状況を確認する。
- 必要なら避難をする。移動に差し支えない範囲で非常用持出袋を持っていく。
- 避難する前に、ブレーカーを落として、ガス・水道の元栓を閉める。
- 避難した時刻をメモにしてドアの内側に貼り付ける。(貼り付ける場所は事前に取り決めておく)
外出先で地震にあったら
- まずは自分の身を守る体勢になること。
- 慌てずにその場所に適した状況確認をして安全優先で行動すること。
- 自宅に向かう場合は、家族で決めたルートを原則守って帰宅すること。
- 自宅への帰宅は困難だと判断した場合は、無理をせずに近くの避難所や公共施設に避難すること。
- 災害伝言ダイヤルに被災した場所、移動することを録音してから行動すること。
避難所に向かう場合
- 第一候補の避難場所に向かうこと。
- 避難所に向かう場合は家族で決めたルートを原則守って向かうこと。
- 第一候補に入れないなど状況によっては、第二候補に移動すること。
- 万一、避難所にたどり着くのが困難な状況などでは、各自の判断で近くの避難所に向かうこと。
- 災害伝言ダイヤルに避難所を変更したことを録音すること。
被災時の連絡方法あれこれ
大震災などが発生すると、自宅の固定電話や携帯電話、公衆電話は災害時に優先する回線の確保をするために、総量規制がかかり通じにくい状況になります。一般公衆回線は局番単位で規制が掛けられるのに対して、携帯回線は基地局単位で規制が掛けられます。場所を移動すると繋がる可能性もあります。
東日本大震災では阪神淡路大震災の頃よりも、ネットワーク社会が浸透していたために、様々な方法が活用されて安否確認や情報伝達、状況確認が立ち上げられました。インターネットは軍事目的で生まれた強い通信網であるため、通常のルートが使えない場合にも、瞬時に使えるルートを探し出して情報を届けることができます。被災地から遠く離れた人々が情報を配信するなどの協力もあって、連絡手段として大変に活躍しました。インターネットという新しい連絡手段も参考にしてください。
わが家の緊急時連絡方法の約束
第1手段「NTT災害伝言ダイヤル」
- NTT災害伝言ダイヤル(171)に場所・状況・避難先・移動先を録音する。録音は30秒、簡潔に話す。
- 家族の伝言が入っていないか再生を確認する。
- 伝言ダイヤルの録音・再生には暗証番号を設定することも可能です。
暗証番号なし | ||
《録音》 |
[171]+[1}+[自宅電話番号○○‐○○○○‐○○○○] 「録音は30秒以内。10件まで」 |
|
《再生》 |
[171]+[2}+[自宅電話番号○○‐○○○○‐○○○○] 「2日間保存される」 |
暗証番号あり | ||
《録音》 |
[171]+[3]+[暗証番号****]+[自宅電話番号○○‐○○○○‐○○○○] 「録音は30秒以内。10件まで」 |
|
《録音》 |
[171]+[4]+[暗証番号****]+[自宅電話番号○○‐○○○○‐○○○○] 「2日間保存される」 |
※暗証番号(4ケタ)は家族全員がイザというときに忘れない番号にしましょう(誕生日、住所の番地など)
※録音・再生を利用する際は通話料がかかります
第2手段「携帯電話」
- 家族の携帯に電話をかける。繋がらない場合は場所を移動してかけてみる。
- 家族の携帯メール(ショートメール)に場所・状況・避難先・移動場所を送る。
第3手段「インターネット」
- インターネットのメールにアクセスしてみる。繋がればメールを送る。
- ツイッター(Twitter)、フェイスブック(Facebook)、ライン(LINE)などにアクセスしてみる。
第4手段「離れた地域に基地局を設けておく(実家・兄弟、友人など)」
- 遠くの基地局に電話をする。 例)おじいちゃんの家 ○○‐○○○○‐○○○○
- 自分の場所・状況・避難場所・移動場所などを伝える。
- 家族からの伝言がないか確認する。
わが家の備え
自宅で備える「非常持ち出し袋」
最低限の防災備蓄用品をまとめオリジナル「非常用持出袋」を家族の誰もが知っている場所に置いておく。家庭でできる防災の第一歩です。ライフラインの復旧が開始されるまで最低3日間かかるといわれています。仮に大人が一日に必要とされる水の量は3リットル。3人家族だと、水だけで9リットル、重さは約9キロです。防災備蓄には、スタンダードはありません。中身をどれくらいそろえるか?どの位の重さまで持ち運べるか?決めるのはあなた自身やご家族なのです。
過去の大震災で、自治体による公的支援(公助)には限界があることがハッキリと明確になってしまいました。共助の意識が高い地域では、町内会やマンション管理組合単位で防災組織が作られるようになってきました。イザという時には、家族や地域の人と連携して助け合うしかありません。阪神淡路大震災でも約70%の方が住民によって救助されました。なるべく、地域で開催される防災・消防訓練には家族みんなで参加しましょう。
イザという時に高齢者や子供だけが自宅に・・・家族同士で面識があればお互いに協力もしやすくなります。また、町内会や自主防災組織では何を備蓄しているでしょうか?
地域防災では備蓄していないものや数量が不足しそうなものを、わが家では重点的に備蓄しておこうなど。地域防災を理解しているかどうかは大きな違いになります。
自家用車に備えておきたいモノ
自宅の交通手段がとても助けになることも考えられます。まず自転車です。行動範囲が広がり、渋滞などに強く、万一には階段を担ぐことも可能です。被災地においても、とても役立つ存在になったようです。普段は特殊ですが「ノーパンクタイヤ」の自転車などもあります。
自家用車ですが、災害の内容によっては、便利な存在にも不便な存在にもなることを理解しておきましょう。
地震直後の避難に自動車を使用すると、渋滞を引き起こします。津波では、危険回避が遅れてしまいます。
避難に自動車を使用しないというのは、避難ルールですが、地震が収まってから、始まってしまう2次災害。停電や断水、避難所生活。プライバシーの確保に自動車をわが家の避難所にする方法もあります。
自動車にも、非常持出袋や非常用トイレキットを置いておくとイザというときに役立ちます。
東日本大震災の避難所において、「自家用車があれば・・・」という話が多かったことは事実です。長引く共同生活で抱えるストレス。自宅があるが余震が恐くて眠れない。避難所に行くのも家があるのに迷惑がかかる。実際に自動車の中で、避難生活をする方々も多く見られました。
3日分の備蓄がおすすめ(1人1日分の目安)
飲料水 | 1日3リットル。折りたたみ式の吸水バッグ |
非常食 | 1日3食。すぐに食べられるクッキーや缶入パン、レトルトなど |
非常用トイレキット | 1日×5回 |
衣料・身体 | Tシャツ・下着・靴下・タオル、雨具、ドライシャンプー、化粧水、クリーム |
就寝対策 | カイロ、毛布、サバイバル用シート、うちわ、防虫スプレー、エアクッション、アイマスク |
防災グッズ | 懐中電灯、ランタン、ラジオ、携帯充電 |
雑貨 | ゴミ袋、軍手、ウェットティッシュ、救急キット、ガムテープ |